三軒茶屋のSugar hillに置かれた吉四六のボトルを見るたび、ふと4年前の夜を思い出す。
その日は、後輩の女の子にとって初めてのスナックだった。
最初は少し緊張していた。
カウンターに座る姿にも、どこか遠慮があった。
でも、ママの笑顔があり、常連さんのやさしい声があり、グラスを交わすうちに少しずつ表情がほどけていった。
気づけば彼女は、その場でいちばんよく笑っていた。
こういう瞬間に出会うたび、スナックっていいなと思う。
誰かが無理に盛り上げるわけではない。
けれど、店の空気や、そこにいる人たちのやさしさに触れているうちに、初めての緊張は少しずつほどけていく。
気づいた時には、最初に感じていた不安の輪郭が、カウンターの灯りに溶けている。
その夜の帰り際、彼女がそっとペンを取り出して言った。
「記念に書いてもいいですか?」
ボトルに並んだのは、一緒に行った仲間の名前と、その夜に接客してくれたキャストさんの名前。
きれいに整った文字ではない。
でも、どんなフォントにも真似できない筆跡だった。
少し照れながら書いたような線。
楽しかった時間を、忘れたくないと思っているような余白。
その一文字ずつに、あの夜の笑い声が静かに残っている気がした。
スナックでは、会話が残る。
歌が残る。
グラスの音が残る。
そして時には、人の名前が残る。
お店に置かれたボトルは、ただのお酒ではなく、その夜に誰がそこにいたのかをそっと覚えている。
4年経った今でも、その吉四六のボトルを見ると、あの日の空気がふっと戻ってくる。
初めてのスナックで少し緊張していた彼女が、最後にはいちばん笑っていたこと。
ママや常連さんのやさしさに包まれていたこと。
そして、帰り際に「記念に」と名前を残したこと。
ボトルに書かれた文字は、少しずつ薄れていくかもしれない。
それでも、その夜があったことまでは消えない。
三軒茶屋 Sugar hillのカウンターで過ごしたあの時間は、今も胸の奥でやさしく響いている。